イアーゴーまでも悲劇 オセロー感想
シェイクスピア劇 オセロー を観劇した1オタクの感想です。
あくまで個人的に感じたことですのでご注意ください。ネタバレ含みます。
私は元々舞台が好きなんですがシェイクスピアは初めて観劇しました。
内容が難しそうとのことで観劇前に新訳オセローを読み予習していざ観劇
本を読んだ段階では
うわ~めっちゃ悪役じゃん~~~やった~~~!
くらいに思っていたのですが観劇前と観劇後ではイアーゴーの印象がすごく変わりました…
始めにもありましたが、私はオセローを観たのも初めてで、新訳を読んだだけなので本でのイアーゴーと、神山さんが演じたイアーゴーしか知らないです。
本では文字だけなので表情までは分かりませんでしたが実際に演じられたイアーゴーを見たとき、私の第一印象の
ただの悪役
は崩れ去りました。
大まかなストーリーは、
将軍オセローの副官に選ばれず軍の指揮をとったことさえないキャシオーが副官になり自分は旗手。
さらに自分の奥さんが寝取られた?(これはついでな気もしますが…)という疑惑の中オセローに復讐するため色々な人を巻き込んでオセローを騙し、オセローが一番大事にしていた妻デスデモーナをオセロー自身で殺害、その後真実を知ったオセローが自害というような展開です。
気になる方はこちらを是非
この記事もこの新訳オセローを参考に書いています。
ここから観劇していて気になったイアーゴーのシーンの考察です。
とっても長くて分かりにくいと思いますが、大丈夫な方はどうぞ…
※あくまで主観100%です
同郷ヴェニス人の友人(?)ロダリーゴーがデスデモーナに恋をしていたことを良いことに手駒にしていくのですが、序盤にロダリーゴーと言い合いをしているシーンでは、まだ私はただオセローが憎いから復讐するのねという解釈でした。
ですが劇中では副官という名声を失ったキャシオーに対し
『名声なんて功績がなくても手に入り、罪がなくてもなくなっちまう、つまらない、嘘っぱちの見せかけです。』
と言い放っています。
『罪がなくても~』ってたった今イアーゴー自身で罪のないキャシオーを焚き付けた事による権威剥奪でおいてめぇ~~~って感じですが
『名声なんて功績がなくても~』でそもそもイアーゴーの復讐劇の原因は自分が副官になれなかったこと。
副官を外されたキャシオーに対してのあてつけかと思っていました。
ですが何度か観劇するうちに先ほどのロダリーゴーとのシーンの
『町のお偉い方3人、この俺様をやつの副官にと推薦すべく、わざわざやつに敬意を払って挨拶しにいってくれたんだ~』
というセリフが引っ掛かりました。
もちろんキャシオーに対してのあてつけもあると思いますが
"自分を副官にするために上司が推薦してくれた。なのに副官は既に決まっていた"
ことにせっかく動いてくれたのにという申し訳なさをセリフから感じました。
プライドの高いイアーゴーが周りからの自分の評価をとても気にすることは理解できますが、あのイアーゴーが申し訳ないなんて思う??自分のためにあんなにいろんな人を巻き込んでおいて?と本を読んだだけの私は思っていました。
でもここに観点を置いて全編を見てみるとまた違ったイアーゴーを感じることができました。
勿論そこにいたロダリーゴーの手前そういう言い回しをしたのかな?とも思いましたが、その時点ではまだ申し訳なさを感じているように思いました。
ですが最後には迷いもなく自分の妻を刺し殺すイアーゴーです。
初めから最後まで、復讐を企て自分の妻を殺すに至るまで
その間にあったイアーゴーの気になった所を挙げていきます。
船に乗りながらロダリーゴーと言い合うシーン
ここが先程引っ掛かったと言っていたシーンですが
このころは復讐の内容も具体的でなく、とりあえずオセローに痛い目みてほしいくらいの気持ちなんだと思ってました。
そのままデスデモーナの父親ブラバンショー宅へ行き
"ムーア人のオセローと議員の娘デスデモーナの結婚"
をきっかけに大事にしていく目的です。
このころもオセローへの憎しみからブラバンショーにオセローとデスデモーナの皮肉を言いまくります。
『オセローのことは地獄の底から憎んでる俺だが~俺の目的のためだ』
とここでは、これからはじまる復讐を説明しています。
そしてオセローを捕らえたい父ブラバンショー率いるオセロー捜索隊をサジタリウス館へ連れてこい。そこでオセローと待っているとロダリーゴーに伝え、オセローの元へ向かいます。
サジタリウス館前でオセローとブラバンショーを対峙させたいイアーゴーですが、ブラバンショーがくる前に自分を差し置いて副官になったキャシオーと出会います。
そのときのイアーゴーの顔といったら…
観劇した方は分かると思いますがオセローの前での猫かぶりがえぐいんです。顔まで子猫のようになってます。まぁオタクの主観なので…
でもこの時目の前にいる相手がキャシオーだと分かった瞬間(あいつかよ…くそ…チッ)みたいな嫌な顔をするんですね。
※勿論セリフはないです
劇中でいうと、イアーゴーとキャシオーの初対面はここになります。
そのあとキャシオーがイアーゴーのことを『旗手!』と呼んでいたので面識はあるんでしょうが。
そしてここからキャシオーも巻き込む作戦が始まっていきます。
そもそもキャシオーが副官になったからイアーゴーは『けっ!』ってなるわけなんですけどなぜか矛先は
"キャシオーを副官に選んだオセロー"
に向かうわけです。
ここで始めに引っ掛かった所を踏まえて
"自分より経験が少ないのに副官になったキャシオー"
もそうなのですがそれよりも
"自分ではなくキャシオーを選んだオセロー"
が憎いんですねイアーゴーちゃん…
そしてオセローのことは
『お偉い方を救うために軍隊を率いるとなれば、あれほどの実力者は他にいない』
とべた褒め
そう、副官にはなりたかったイアーゴーですが将軍になることは考えてもない。
将軍がオセローになったことは全く悪く思ってないしむしろそうあるべきふさわしい人と認めている。
なのにそのオセローが自分ではなくそろばん野郎くん(キャシオー)を自分の意思で副官にしたことが悔しくて悲しかったんだろう…
だからキャシオーよりもオセローに復讐心をメラメラさせるイアーゴーちゃん。
なんかここまでくると愛しくなってイアーゴーちゃんとか呼んじゃう
そのあと公爵に召集されてオセローとデスデモーナの結婚を公に認められ、半泣きのロダリーゴーとマント丸めて投げるイアーゴーのシーン。
ここで初めて復讐の内容を具体的に考えて、キャシオーを巻き込んで自分が副官になれば一石二鳥じゃんって名案を思い付くイアーゴー様。
あ、関係ないんですけど、イアーゴー様スタスタ歩くくせに、デスデモーナを連れてくるときはゆっくり歩幅合わせてうしろについてくるのかわいいよね。
あと日々上達していく地球儀遊び…かわいい
この後作戦は順調に進んでキャシオーは副官の座を下ろされ、オセローはデスデモーナを疑うようになります。
そしてついにオセローがキャシオーを殺せとイアーゴーに命じます。
これを自分から言わずにオセローに言わせるんだからほんとに頭と口が上手いよイアーゴー。
キャシオーを殺せとの命令に対し『やります!ご命令とあらば!』と将軍がいうなら友人も殺しますという表向きの従順な部下の顔をオセローに向けたと思いきや、こちらに振り向いてニヤリと悪い顔。
あぁ!悪巧みよ悪巧み!!!と私の中のエミーリアちゃんが騒いでます。
そう、キャシオーを殺すことに関してはなんとも思ってないしむしろ計画通りという感じ。
罪悪感、うしろめたさもなにもないもはや清々しいイアーゴー。
でもここからデスデモーナが絡んできます。
ヴェニスの公爵の使いのお偉い様方がいる前でオセローがデスデモーナを平手打ちしたシーン
そこでイアーゴーはとても驚いた顔を見せます。
散々オセローにあることないこと吹き込んで、オセローがデスデモーナを憎むように仕向けていた張本人のイアーゴーが、デスデモーナを心配したような表情で見ていました。
今までもデスデモーナを巻き込んではいたのですが間接的でした。
ここは文字では分からなかったシーンで、もうオセローがデスデモーナに対しての怒りが爆発していることは知っているはずなのにいざ、目の当たりにするとその事実にイアーゴー自身驚いていたんです。
ここらへんから、あれ?イアーゴーってただの悪人じゃないの?と疑問になってきました。
だってオセローに復讐したくて、キャシオーを副官の座から引きずり下ろして
オセローも良い感じに騙されてデスデモーナを疑って、オセローに
『ベッドで(デスデモーナの)首を絞めなさい』
と言うくらいなのに。
そしてこの後のオセローとデスデモーナのシーン
オセローは完全にイアーゴーの嘘を信じ、デスデモーナがキャシオーと浮気をしていると思っています。
でもそんな疑われるような事は全くしていないデスデモーナがオセローに信じてくれと話しますが、聞く耳を持ってもらえず、怯えながらイアーゴーを呼びます。
デスデモーナに呼ばれたイアーゴーは今にも泣きそうなデスデモーナに『泣かないで、泣かないで』と心配そうに声をかけます。
ここも本では、あんなに人を騙してきたイアーゴーなんだからこれくらい本心じゃなくても言うよなという印象でした。
デスデモーナはイアーゴーにオセローから娼婦呼ばわりされたことを泣きながら話し
純粋無垢なデスデモーナの怒りを代弁するかのようにエミーリアは、イアーゴーにオセローはひどい男だと訴えます。
そう仕向けたイアーゴー本人に。
劇中の心配そうな顔も流石イアーゴーの演技だなーと思っていましたが、次のデスデモーナのセリフでそのイアーゴーの表情が固まりました。
『ねぇイアーゴー。どうやったらまた主人を取り戻せるかしら?』
『私のどんな器官でも他の誰かに惹かれたとしたら。あるいは私が現在過去未来、心底主人を愛さないことがあるなら、心の平安などいらない!』
と心からの叫びを口にするデスデモーナ。
悲痛な叫びを聞いた客席からすすり泣く声がたくさん聞こえてくるシーンです。
それでも本を読んだ段階ではイアーゴーがしたことだし、さらっと流して計画通りだと思ってるんだろうなと感じていましたが、ここのシーンであきらかにイアーゴーの顔が固まっていました。
ここではイアーゴーに
『虫の居所が悪かっただけ、八つ当たりなさったのです。』
と慰められるデスデモーナがイアーゴーにすがるように抱きつきます。
ですがこの時のイアーゴーは、自分にすがるように抱きついてきたデスデモーナを抱き締めることができませんでした。
ここが私の中で一番イアーゴーを考え直したシーンにもなります。
今までのイアーゴーなら平気で嘘をつき、大丈夫だと慰めデスデモーナを抱き締められたはず。
それが自分のせいで旦那に信じてもらえず泣きじゃくるデスデモーナを前にし、自分自身の本当の感情を嘘で丸め込めなくなっていました。
イアーゴーは自分の感情さえ、自分の嘘で押し殺して気付いていないふりをしていたんだと思います。
自分が認めていた将軍から副官に選ばれなかった怒りを、そのまま復讐に向けたイアーゴー
無実を信じてもらえなくても怒りではなく、復讐ではなく、どうしたら元に戻れるか信じてもらえるかと考え、あんなに酷いことを言われても最後まで旦那を愛することをやめなかったデスデモーナ
嫌なことをされた事実
は同じなのに
ここでオセローの題材にもなっている白と黒
心からの愛と心からの憎しみ
自分に絶対的自信がありプライドの高いイアーゴーが、純粋で最後まで自分の愛を貫いたデスデモーナを見て何を感じたんだろう…
この時自分のしてしまったことの重大さにようやくイアーゴーは気付いたのではないかと思いました。
デスデモーナとエミーリアが退場したあと、鏡に写る自分をみて怯えるシーンがあります。
三幕の途中からイアーゴーの目の下のクマ?のような黒いメイクが気になっていました。
悪いことをすると悪い人の顔になると聞いたことがあるのでそういう演出かなと思いましたが、やつれているようにも見えました。
自分では気付かないうちに、もうそうするしか道が残っていない時にこんな悪人が自分なのかと気付いて驚いた。
そして拳を地面に叩きつけ言葉にならない叫びをあげます。
丁度そこに騙され続けてきたロダリーゴーが登場し、思い通りに動かなくなった駒に対してのイラつきと、もうあとに引けない思いとでキャシオーを殺すように言ったのかなと感じました。
そしてここからのイアーゴーは以前のイアーゴーよりももっと冷徹に残酷になるように見えました。
前のような憎悪からくる残酷さではなく、もうなにも考えてないような、どうにでもなれというような冷徹さ。
役目の済んだロダリーゴーを殺し、告げ口をした妻エミーリアをなんの迷いもなく殺害。
エミーリアに剣を向けたとき、イアーゴーはグラシアーノーに止められ体を抑えられていましたが
あれ殺そうと思えばグラシアーノーを刺して払いのけられたのでは…?
と思ってしまいました。
でもそうしなかったのではなく、できなかったのだとすれば
きっと前半の頭がキレ、周囲にすばやく気が付くイアーゴーであったら…
もうここでは前のイアーゴーではなく、自分でも訳が分からなくなっていて、目の前のことしか見えていなかったとしたら
それでもオセローがデスデモーナを殺したと発言した際には驚いた顔を見せていたし、オセローが自害する際も目を見開いて反応していました。
そしてオセローが自害した後トルコ軍?に周りの人々が殺されていくなか、倒れていたイアーゴーは一人だけ刺されることなく生き残ってしまいます。
でも周りが剣で刺されている中、無表情ではなく(なにが起きているんだ)と言わんばかりに目を動かしていたイアーゴー。
自分も殺されるのではという恐怖からかとも思いましたが、最後に一人だけ生き残されベッドに寄りかかっているイアーゴーの表情をみて、もうどうにも出来なかったんだなと感じました。
結果的に最初から最後まで悪人だったわけですが、イアーゴーなりの感情や器用だけど不器用なところが少しでも感じられてとても感慨深い舞台でした。
なんか小学生でありがちな好きな子に悪口言いまくってたら思ってたより大事になってしまい、とりかえしのつかないことになって『お、おれ悪くないもん!○○ちゃんが悪いんだ!!!知らね!!』みたいな最悪版だなと思ってます。
まぁそんな軽いことじゃないんですけど初めの方のイアーゴーと後半でのイアーゴーでは全然違うんですよね。
観劇する前の自分のようにただの悪者という見方で固めてしまうのではなく
イアーゴーの心の動きを気にしてみると、ここも含めて悲劇なのではと考えさせられる作品でした。
閣議の際自分の娘を奪われたブラバンショーから罪に問われたオセローは
『確かに娘御と結婚しました。私の罪はそれがすべてでありそれ以上ではありません。』
と妻の父親に対して発言していました。
そしてデスデモーナを殺す前に不倫をしたと思い込んでいるオセローは妻に罪を考えろといい
『それはあなたを愛していること。』
とデスデモーナは答えます。
始まりに愛し合い結婚したことを罪だとし、最後も主人を愛していることを罪だとする
ここに気付いたときは何とも言えない気持ちになりましたね……
全世界に見てほしい舞台でした
キャストの皆さん本当に素晴らしい舞台をありがとうございました。
そして本当にお疲れ様です。
私は個人的にエミーリアちゃんが好きです。
もちろんイアーゴーも大好きです
えげつない文量でまとまりのないただの感想ここまで読んで下さった方が居たら本当に申し訳ないです…
私は違う!こう思った!
ってたくさんの方の感想を聞きたいので、話し足りない私はいつでもお待ちしていますー!